体の管理をしていないと起こり得る事故・リスクの実例
[実例] 40~60代は血圧管理徹底を!梅田暴走事故の教訓とは?
2月25日、大阪・梅田。ハザードランプを点滅させた黒のプリウスが赤信号を無視して交差点に進入。通行人を次々とはね、歩道に乗り上げた後、花 壇に衝突して止まった。この事故で2人が死亡、1人が重体、8人が重軽傷を負った。死者の一人は運転手の男性(51)だった。
男性の死因は事故による外傷でなく、大動脈解離で生じた「心タンポナーデ」だ。運転中の突然死の問題を研究する滋賀医科大学の一杉正仁教授(社会医学)はこう解説する。
「大動脈解離とは、体の真ん中を走る太さ3センチほどの大動脈の内側の壁が裂け、外側の壁との間に血液が入り込む病気です。外側の壁が膨らんで心臓を圧迫すると、心タンポナーデという致命的な状態に陥ります」
実は、運転手が運転中に病死するケースは少なくない。国内外の調査では、交通事故の1割程度にのぼる。東京都監察医務院の報告だと、1953~2003年の50年間に23区内で発生した車の運転中の突然死は629例。年ごとの件数は80年以降は20件前後で横ばいだが、「高齢ドライバーが増えるに伴い、増える可能性はある」 (福永龍繁院長)という。
13年7月に東北自動車道で起きたバス事故では、37歳の運転手が「虚血性心疾患」(心臓に血液がいかなくなる病気)を発症。異変に気づいた乗客がブレーキをかけ、幸いにも乗客に死者は出なかった。翌年3月には伊勢自動車道の路肩に駐車中の車から、レスリングの吉田沙保里選手の父(当時61)が見つかり、死亡が確認された。死因は脳の血管にできたコブが破ける「くも膜下出血」だった。
いずれも急性の病気で、すぐに治療しないと命にかかわる。一杉教授は「体調が急変したときにとっさに回避行動がとれるケースは、病気の種類にもよるが、全体の2~3割程度」という。
主を失えば、車の暴走は止められない。それなら、車の技術で何とかならないのか。月刊誌「ドライバー」編集部によると、梅田の事故で男性が乗っていたプリウスは、一つ前のモデル。新モデルでは歩行者を認識して衝突回避を支援する「自動ブレーキ機能」が搭載されているという。
新しいモデルだったら、ここまで悲惨な事故にならなかったかも」(編集部)
車の安全性には限界がある。突然死を予防することはできないのか。
「とにかく血圧の管理を」と、一杉教授は言う。
監察医務院のデータでは、死因の1位が虚血性心疾患 、2位が脳血管疾患 、3位が大動脈疾患だ。いずれも高血圧がかかわって起こる。一杉教授らの調査でも 、同じような結果が出たという。
「運転中は常に緊張を強いられているため、血圧は平均で10程度上がります。高血圧の人だと、さらに血圧が上がり、虚血性心疾患や脳血管疾患のリスクが高まります」(一杉教授)
発症年齢にも注目したい。突然死が最も多いのは51~60歳で、41~50歳が続く。中年の世代が危ないのだ。脳卒中治療の専門家で東京都済生会中央病院の高木誠院長は言う。
「40~50代の男性には、高血圧と診断されている人が意外と多い。でも、自覚症状がなく、日常の多忙もあって、治療をしていない例が少なくないのです。高血圧を放置すると、この年代でも脳出血や心筋梗塞を発症する 。運転中だけで なく、日 常的に突然死を起こすリスクを背負っています」
高い血圧を放置し、ストレスのかかる運転でプチッと血管が切れる 。自身の命だけでなく、まったく関係のない人の命まで奪う危険性を考えたら、日々の血圧コントロールぐらいなんとかしたいものだ。
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